ソフロロジーといえば、日本では「ソフロロジー出産」が有名です。

でも、ソフロロジーは、医療用セラピーとしてヨーロッパで発展してきた心と体のケアを行うセラピーなんですね。

この記事では、ソフロロジーの本場フランスの労働省管轄RNCPレベル認定ソフロロジストの筆者が、日本ではよく知られていない「セラピーとしてのソフロロジー」について、ご紹介していきます。 

※出産に関するソフロロジーに関しては、こちらの記事をどうぞ。

ソフロロジーの誕生

ソフロロジーは、神経を専門とするスペインの精神科医アルフォンソ・カイセド(1932 ― 2017) によって、「調和のとれた意識」を探求するために始められた研究です。

(カイセド先生は、1932年にコロンビアで生まれていますが、その後、スペインへ渡り、一生のほとんどをスペインで過ごされています。)

その研究によって1960年に体形化された身体・心理療法(セラピー・メソッド)の名前でもあります。

ソフロロジーの名前の由来

それにしても読みにくい名前(笑)ですが、なんで、こんな名前になったかというと、そこには意味があるんです。

ソフロロジーという名前は、カイセド先生の造語で、次の3つのギリシャ語が含まれています。

sôs ソ       調和・バランス

phren フレン   意識・精神

logos ロゴス    思考・言葉・万物を支配する法則(科学)

「調和した意識」を導いていくのに、『言葉の力』を使う科学、とでもいいましょうか。

なぜソフロロジーが創られたの?

マドリードの病院(l’Hôpital Provincial de Madrid)で働き始めた精神科医のカイセド先生は、統合失調症などの患者さんへの治療法が人工昏睡や薬物治療など、患者さんに負担の大きいものばかりだったことを受けて「もっと人間らしい治療法はないのか」と、自問自答していたんです。

実は、統合失調症のschizophrénie (スキゾフレニー)という病名は、「裂ける・分裂する・壊れる」などの意味を持つschizein というギリシア語と、「理解・判断力・精神」などの意味を持つPhren という2つのギリシア語から成り立っているんですが、そのことからカイセド先生は次のように考えました。

『統合失調症schizophrénie (スキゾフレニー)という言葉に精神の分裂や不調和という意味があるなら、調和した精神を探求する学問も必要だよ!』

そこで、「調和のとれた意識」を探求するための研究分野を自分でつくったんですね~。

すごい行動力!!

こうして、次のような感じでソフロロジーが世界に知られていくことになります。

ソフロロジー普及の歴史

カイセド先生は、1970年にバルセロナで開かれた世界的な学会でソフロロジーを発表し、大好評を得ました。 

1960年  –  カイセド先生が自らのメソッドを「ソフロロジー」と名付ける。

1970年  –  世界の42か国から1500人近くの医師が集まったバルセロナ国際学会で、カイセド先生がソフロロジー・メソッドを発表。この学会でソフロロジーが世界的に公認される。

1974年  –  パリにて、医師免許を持たない一般の方向けにソフロロジー講習会が開催される。(それまでは医師の間のみで実践されていた。)

1977年  –  医師免許を持たない者がソフロロジスト(セラピスト)として実践できる体系が確立される。

ソフロロジー・メソッドの発表は、センセーショナルな成功を収めたのですが、カイセド先生が歳をとってから、自分自身の人生に対する思想や価値観をソフロロジーのワークの中に取り込むようになっていき、「個人の思想や価値観の尊重」を重視するヨーロッパの医療者たちから反発が起こるようになりました。

一方で、「ソフロロジー」という名の元に、本来のソフロロジーの本質を尊重しない実践を教える人達も出てきました。

こうして、医療ケアのみに目的を絞った「初期のソフロロジー」に忠実な実践を唱える「ノンカイセド派」がパリで興り、カイセド先生はカイセド先生で、自分が伝えるソフロロジーに対して「カイセディアン・ソフロロジー」という名前で商標登録し、実践者を限定することにました。(カイセディアン・ソフロロジー」は、「カイセディアン・ソフロロジーの認定校」の卒業生しか実践することができません。)

現在では、ノンカイセド派やカイセド派の軋轢はなくなっています。

ソフロロジーって、結局なに?

カイセド先生は、ソフロロジーについて、次のように言っています。

« La sophrologie est une science qui étudie la conscience en équilibre. C’est une discipline pour le développement des valeurs de l’être, inspirée par la phénoménologie existentielle »

ソフロロジーは、『バランスのとれた意識(心と体、思考)とは何か?を研究する科学であり、「現象学」に影響を受けて生まれた「自分の存在価値への気づき」を意識の中に育てていくためのメソッド』である。

近年、自己啓発、マインドフルネスなどでも「ありのままの自分」だとか「自分を受け容れる」ことの重要性が話題になっていますが、それが大事と分かっていても実践することは一筋縄ではいきません。

「そうありたい」と思っても、実際にはそうなれない。

そこを、実際にそうなっていくためのワーク・メソッドがソフロロジーなんです。

ソフロロジーを実践するとどうなるの?

自分で自分を縛っている「感情の癖」や「思考癖」、無意識の「先入観」に気づけるようになります。

また、無意識に自分を「良い/悪い」と評価している、宗教的思想や社会的常識などの基準に気づけるようになります。

「ありのままの自分のイメージ」から逸れていた自分に気づくことで、ニュートラルな視点から自分を眺められるようになっていきます。

そうすると、「評価された自分」ではなく、良し悪しは別にした「ありのままの自分のイメージ」が持てるようになります。

そして、その「ありのままの自分」に「存在価値」を感じる感覚が育っていくのが、ソフロロジーなのです。

詳しいことは、こちらも参考にしてみてね。

ソフロロジー 表紙

ソフロロジーが実践されている分野

 ソフロロジーは、カイセド氏が現役で活躍していた時代から、様々な分野に用いられ、近年も、その活躍の幅を広げています。 

  • 仕事や日常のストレス、苦手の克服。
  • 子どものメンタル・ケアや、あり余るエネルギーの発散。
  • 思春期・老年期における心身の変化からくる不安症状の鎮静。
  • 闘病中の痛みの緩和や生活の質の向上と、前向きな闘病生活の実現。
  • 試験やコンクール、オーディション、出産などの特別なイベントをスムーズに迎えるためのメンタル・トレーニング。
  • アルコールやタバコ依存症などの克服。
  • 飛行機や乗り物、蜘蛛への過度な恐怖など、生活に支障をきたす恐怖症の克服。
  • 集中力UP。
  • 不眠の解消と睡眠の質の向上。
  • スポーツ選手のメンタル・トレーニング(オリンピック選手なども使われています)。
  • 精神的な自己啓発。
  • 耳鳴りの治療。

主にヨーロッパのフランス語圏(フランス・スイス・ベルギーなど)で活発に実践されており、英語圏に持ち込まれたのは、その後のことです。

フランスでのソフロロジーの発展

フランスとスイスにソフロロジーを広めたのは、カイセド氏の友人でもあった精神分析東洋医学を専門とするスイスの医師アブレゾル氏(Raymond Abrezol)でした。

最初は、「出産」と「スポーツのメンタル・トレーニング」の分野で取り入れられ、2000年代に入って、その他の分野でも取り入れられるようになっていきました。  

2011年以降、フランスでは、慢性病を抱える方、特に癌闘病患者に対して「患者の会」や「医療機関」からソフロロジーが勧められることが多くなっています。

ソフロロジーは治療目的ではなく「医療ケアの補助」という位置づけで活用されています。癌 治療の代わりになるわけではありませんが、同じ治療をしていても、治療効果を引き上げたり、治療中の人生の質を上げることができます。

その他、企業スポーツやソフロロジー出産の分野で広く取り入れられています。

2018年、フランス全土のソフロロジストは約1万人以上とされています。

複数の省庁が管轄する「Centre de ressource documentaires ministériel」の2019年度版では、ソフロロジーが「心身症に関する医療」「行動医療」「催眠療法」らと同じくくりの中に位置づけられ、医療セラピーとして認められました。  

 

ソフロロジストの資格

フランスでは、フランス労働省管轄の組織「France compétance」が発行する全国職業資格総覧(Repertoire National des Certifications Professionnelles:以下 RNCP)というものがあります。

日本でもフランスでも、民間資格には中身が薄く、営利目的で作られている資格も多数あるため、一般人からすると「○○資格者」といっても、その実力を測れない現状があります。

そこで、フランスでは、RNCPという国家機関が、一定のレベルを満たしている民間資格を、国家資格に次いで信頼できるものとして認定しているんです。こうすることで、一般人にも分かりやすくなりますよね。

因みに、資格者養成校にもRNCPが認めているものと、そうでないものがあり、5年ごとに監査が入るのですが、2022年4月時点では、RNCP登録ソフロロジスト養成校は4校となっていました。

ちなみに、私はRNCP認定ソフロロジストですが、元々、RNCP認定校の出身でもあります。

ソフロロジーってどんなことに効果があるの?

ソフロロジーが効果的とされる目的は大きく4つに分けられます。

Ⅰ 日常のストレスを手放し、より豊かな毎日を送れるようにする。

Ⅱ 試験やスポーツ、出産などのイベントに向けたメンタル・トレーニング

Ⅲ 闘病をされている方のストレスケア、メンタルケア、痛みの緩和と治療効果の促進

Ⅳ 依存症や恐怖症、摂食障害などからの解放。

Ⅰ 日常的なストレスを解消して、自分らしい人生・生活を取り戻す

仕事・過労・燃え尽き症候群などのストレス・ケア

現代生活の中で一番のストレスといえば仕事ですよね。 転職部署移動、または会社の上司や経営者の入れ替わりなどは大きなストレスになります。 そんな時はもちろん、近年は人件費削減のため少ない人材で大量の仕事をこなさなければならない状況も増えています。 そんな状況下での働き過ぎや燃え尽き症候群(バーン・アウト)の方のストレスケアはソフロロジーの大切な役目となっています。

感情のコントロール

感情の乱高下が激しいと感情に振り回されて本来の自分を見失ってしまうことが多く、家族や同僚と衝突することが多くなるなど、人生全体の幸福感が損なわれてしまうことがあります。 また、特定の不愉快な体験によって特定のことに関して強い苦手意識が育まれてしまう場合があります。 自分が感情の主となって感情をコントロールできるようになり、日常生活の質を上げるための手法としてソフロロジーは広く活用されています。

睡眠の質の向上

ストレスや不安は睡眠の質に表れやすいものです。 不眠症状の改善にソフロロジーは広く活用されています。 不眠症状とまでいかずとも、寝つきが悪い、寝て朝起きても疲れが取れない、そんな睡眠の不満を訴える方は現代とても多くなっています。 ソフロロジーを実践することで質の高い睡眠を取り戻し、日々の生活の質を向上できることが知られています。

50代以降の人生の黄昏期を謳歌するため

一定の年齢を超えると、何事も若い頃のようにはいかなくなります。 「頭の中は若いのに体力は衰えてきた」或いは「体はまだまだ元気なのに定年退職で生き甲斐を失ってしまった」そんな心身のアンバランスを来すこともあります。 また、人生を共に生きてきた同世代の友人が病に倒れたり、天命を終えるという話題も耳にすることが増え、今後の人生に対する見方が大きく変化します。 そんな中で、人生に対する価値を今一度再構築し、自分軸を確かにしながら、より豊かな人生を送るためにソフロロジーは広く用いられています。

Ⅱ 試験や試合、出産など大切なイベントに向けたメンタルトレーニング

ソフロロジー出産

ソフロロジー・メソッドを用いて出産準備をすることで、痛みを軽減し落ち着いた穏やかな出産を向かえることができます。 ソフロロジー出産についての詳しい記事コチラをご覧ください。

入試や資格試験、運転免許など、人生にとって大一番で最大限の力を発揮するための準備

人生で大切なイベント、プレッシャーがかかる試験などで緊張せず、本人がもっている最大限の力を発揮できるようになるためのメンタルトレーニングとしてもソフロロジーは高い効果が知られています。 大学入試(フランスではバカロレアという大学入試に相当する試験があります。)や運転免許試験、会社の面接、学会発表など、大きな緊張が伴う場面で、緊張せずに持てる最大限の力を発揮するためにソフロロジーを活用する方は多くいらっしゃいます。

スポーツのパフォーマンス向上とメンタルトレーニング

オリンピック選手などが大会に向けてイメージトレーニング、メンタルトレーニングをされている話は皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか? ここ一番という試合の大切な場面で緊張する。 そんな理由で元々持っている力を発揮できないのはスポーツマンにとってとても辛いことです。 プロのスポーツ選手だけでなく、趣味でスポーツをしている方もソフロロジーを活用してメンタルトレーニングをしている方は多くいらっしゃいます。

人前で話すことの苦手克服

仕事柄人前で話すことが必要だけれども人前で話すことが苦手で困っている、または人前で話すことが苦手なために人生でのステップアップを諦めている、そんな方にもソフロロジーは広く活用されています。

Ⅲ 病をお持ちの方のQOLの向上と治療補助。

※ソフロロジーはあくまで治療補助としての効果となりますので、医学的な治療の代替とはなり得ません。

癌との闘病

癌との闘病は治療自体、患者さんへの負担が大きく、治療しなければいけないことが分かっていても、その治療に前向きな気持ちになれないということはよくあります。ソフロロジーは、そういった治療の副次的なデメリットを軽減し、治療によって落ちてしまった生活の質の向上をサポートする効果があることが知られています。

鬱病・鬱的症状

現代は様々なストレスによって鬱的な症状を抱えてしまったり、鬱病になってしまう方も増えています。ソフロロジーは治療手段ではありませんが、鬱病を改善するために心理療法を行っている方の治療効果を高め、早期回復をサポートするために広く活用されています。 ※一時的な鬱の場合はソフロロジーのみで対応できる場合もありますが、重症度によっては医師にかかっていることが前提となる場合もあります。

皮膚病

皮膚は人目に触れることの多い部分です。 皮膚病を患っている方はその病の不快症状とは別に皮膚病が人目に触れるということからくるストレスを抱えている場合も多くあります。 また、ストレスから皮膚病を発病したり、悪化したりすることもあります。 ソフロロジーには、そんな皮膚病にまつわるストレスを軽減し、皮膚病によって落ちてしまった生活の質を向上させる効果があることが知られています。

耳鳴り

耳鳴りを患っていらっしゃる方は、とてもストレスの高い生活を強いられています。 耳鳴りの治療研究では、ソフロロジーは耳鳴りの治療に効果があることが発表されています。

Ⅳ 依存症や恐怖症、摂食障害などの改善。

摂食障害公共交通機関への恐怖症、その他の恐怖症、ギャンブル・タバコ・アルコール依存症などから脱出するためにソフロロジーのサポートが効果的であることが知られています。 ※状況が深刻な場合には医師にかかっていることを確認した上でソフロロジーを実践頂くことになります

グループ・セッションもできるソフロロジー

フランスでソフロロジストが活躍する場は、個人が運営するセラピー・クリニックだけではありません。 次のような施設でもソフロロジーが多く活用されています。

施設ソフロロジーが用いられる主な目的
幼稚園・小学校あり余るエネルギーの上手なコントロール。集中力の向上。体育やレクレーションのあとに気持ちを切り替えて落ち着きを取り戻して授業に臨めるようにするため。
中学校・高校エネルギーのコントロール。思春期特有の不安定な感情ケアやストレスケア。試験へのプレッシャーをコントロールし、学業への集中力を上げるため。記憶力の向上。
会社ストレスケア。疲労回復。集中力の向上。モチベーションの向上。
産院ソフロロジー出産。
病院闘病患者のストレスケア。メンタルケア。痛みケア。治療効果を向上させるための補助。
スポーツクラブ試合の成績向上。メンタルトレーニング。
老人ホーム老い対するストレスケア。メンタルケア。痛みの緩和。記憶力の向上。

フランス以外でも、スイスやベルギーではソフロロジーが盛んです。

特にベルギーでは、義務教育に関わる教師全員がソフロロジーの研修を受け、生徒にソフロロジーのエクササイズを施せる仕組みが整えられています。

そのため、ベルギーの子どもたちはソフロロジーのテクニックを「自己コントロール」や「自己理解」に活用することができ、彼らの将来が楽しみだなと思います。